「悟浄…着いて来て言うのもなんだけど、用事ってココ?」
「そ、まぁまだ昼間だからそんなにやばいトコじゃないって。」
「ん〜…」
眉を寄せて思わず階段を降りるのを躊躇ってしまう。
着いた場所はいわゆる大人が出入りするようなBAR。
しかも行き先はその店の中にある地下らしい。
確かに今は太陽も出ていて昼前だし、お店に人はあんまりいなそうなんだけど…薄暗い店内に入るには少しばかりの勇気がいる。
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、悟浄は腕を組んだままスタスタと店の中に入ってしまう。
「待ってよ、悟浄っ!!」
「ダ〜イジョウブだって、オレがついてるだろ?」
「で、でもっあたしやっぱり店の前で待ってるよ。ね?」
店のドアの前で両足に力をいれ何とか悟浄の体を引きとめる。
「オレの用事ってこの中だぜ?」
「だから用事終るまでここで待ってるから、ね?大人しくしてるからっっ!!」
顔を真っ赤にして精一杯悟浄の体を引き止めていると、ふいに抱きしめられ耳元で悟浄の声が聞こえた。
「…をひとりにしたら誰かに連れてかれちまうかも知れねェだろ?」
耳元で聞く悟浄の声はあたしの体の力を一気に奪ってしまった。
「ず…ずるい。」
「チャン、耳弱いからな♪」
ニヤニヤ笑いながらあたしの肩をぐっと引き寄せるとそのまま強引に薄暗い店内に引きずり込まれ階段を降りて行く。
まぶしい太陽の光で慣らされていた所為か、初めのうちはあまり店内の様子は見えなかったけど、暫くして目が慣れてくると奥のカウンターにひとりの男の人がいるのが見えた。
カウンターの椅子以外は全部上に上がっていて、まだお店が開いていないっていうのがあたしでもわかる。
そんな事全く気にしていない様子の悟浄はあたしの肩に手を回したまま男の人の所まで行くと軽く手を上げ挨拶をした。
この人がご用事ある人なのかな?
相変らず悟浄達の言う事以外は全く異国の言葉だから何て言ってるか分からないんだよねぇ…少し勉強しようかな。
八戒も興味があるなら教えてくれるって言ってたし。
な〜んてあたしがぼーっとしてたら、いつの間にか目の前にオレンジ色の飲み物が置かれていた。
悟浄の方を見るとその前には琥珀色の液体…大きな氷が浮いてるし、マスターって呼ばれてた人の手元には何かのお酒らしきビンがあるから…きっと悟浄のはお酒だよね。
…いいのかなぁ昼間から
また八戒に怒られる気がするけど…
「アルコールあんまり強くねェよな。これマスターが作った新作、ノンアルコールだから飲んでみ。」
「ありがとう、頂きます。」
言葉は通じないだろうけど、マスターにも頂きますと言いながら軽く頭を下げてひとくち口に含む。
すると口の中に爽やかな甘みが広がり、それが緊張していたあたしの体を徐々にほぐしていくように感じた。
「美味しい…悟浄これ美味しいよ!」
眉を寄せていた表情が自然と笑顔に変わる。
こんなに美味しいジュース今まで飲んだ事ない!!
「へェ〜チャンがこんなに喜ぶんじゃかなり美味いんだろうな。悟浄サンにもひと口ちょんだい。」
「うん!!」
グラスを悟浄に手渡すと、わざとグラスを持ち替えてちょうどあたしが飲んだ部分に口をつけてくっとグラスを傾けた。
「!?」
「間接キス?」
ごちそーサン♪…って言ってあたしの手元にグラスを置いたけど…悟浄ってば、どれだけあたしの心拍数を上げれば気が済むんだ!?
それから暫くの間、悟浄はマスターらしき人と話をしていた。
あたしは…と言えば、マスターがくれたジュースと悟浄に出されたおつまみを横から手を伸ばしてパリパリ食べているだけ。
端から見るとおかしな光景かもしれないけど、一人で読めない本を家で眺めているよりもずっといい。
悟浄が町でどんな風に過ごしているのかを間近で見られるだけで、充分。
それに言葉は分からなくても、時折声をかけてくれるマスターの表情が…凄く温かいから、あたしの気持ちも自然とこのお店に馴染んでいくような気がした。
胸ポケットに入れていた何かをマスターに手渡すと、悟浄がポンッとあたしの肩を叩いた。
「チャン、お待たせ。」
「?」
「お仕事終了。」
「終了?」
「そんじゃ、マスター。まったねん。」
ヒラヒラ手を振りながら歩き出した悟浄の後を追いかける。
階段を上がる前に足を止め、マスターに向かってペコリと頭を下げると、八戒とお買物に行くと良く聞く言葉を言われた…気がした。